こんにちは。(株)FIJの岩井です。
先日、テナント様から預かった保険証券を確認した際、私は思わず絶句してしまいました。そこには「設備・什器補償額:500万円」と記されていたからです。
テナントから届いた保険証券に愕然とした。設備補償500万円。全焼しても再建など到底叶わない額だ。
— (株)FIJの中の人|サブリース歴15年の営業本部長(元ノンバンク支店長) (@FIJ_eigyou) December 19, 2025
保険料を抑えるためだろうが、「再調達価格」で備えなければ保険の意味がない。節約のつもりが、万一の際に再起不能を招くのはあまりに惜しい。守るべきは目先の小銭ではなく事業だ。#飲食店経営
今の建築資材高騰、厨房機器の価格上昇を考えれば、500万円で店を再建するのは不可能です。今回は、なぜ「とりあえずの500万円」が経営を終わらせるのか。私が現場で見た廃業事例をもとに、保険設定の恐ろしい落とし穴を解説します。
▼ 経営者を守る「店舗保険」シリーズ
- 【まとめ】店舗保険の全知識(契約・金額・事故)
- 第1回:直契約と代理店、どっちが得か?
- 第2回:本記事(店舗保険500万円の罠と「時価」の恐怖)
- 第3回:ダクト火災と示談交渉の実録
【実録】漏水事故の「250万円」が払えず、店舗を閉めた無保険の店子
損害保険の冷徹な原則として、相手から賠償される金額は、基本的に減価償却後の「時価相当額」が上限です。以前、私が担当した物件で、上階の店子が下階に漏水を起こした事例の数字をご覧ください。
- 店舗の復旧にかかる実費:約600万円
- 相手方保険会社が査定した賠償額(時価):約350万円
- どうしても埋まらない不足分:250万円
この差額250万円を埋めるのが「自社の店舗総合保険」の役割ですが、この被害店舗は保険に未加入でした。結果として、250万円の持ち出しができず、店舗の再開を断念。そのまま廃業に追い込まれました。
もし、この店に証券通りの「500万円」の補償があれば救われていたかもしれません。しかし、実務上は「500万円あれば漏水は安心」とは限りません。被害が複数フロアに及んだり、高額な設備が浸水したりすれば、漏水事故であっても500万円など一瞬で上限に達してしまうからです。
「火災」が起きた瞬間、500万円の証券は「廃業通知書」に変わる
漏水ならまだ相手からの賠償(時価分)が期待できますが、火災はさらに過酷です。日本には「失火責任法」があり、隣が火元で自分の店が全焼しても、相手に1円も請求できません。つまり、火災時は相手からの賠償は0円であり、すべて自前の保険で直すしかないのです。
ここで、現在の再建費用という現実を見てください。
- 店舗の再建費用(2025年現在):3,000万円超(内装・設備・空調込)
- 相手(火元)からの賠償額:0円
- 自社の保険金額(証券通り):500万円
- 不足する再建資金:2,500万円以上
この2,500万円もの巨大な乖離こそが、私が「愕然とした」理由です。500万円という設定は、「火事になったら店を捨てる」という宣言に等しい。3,000万円以上かかる再建に対し、500万円の備えは実務上、無保険で廃業した店子と何ら変わりません。
あなたの保険は「新価」か「時価」か。今すぐ確認すべき特約の有無
飲食店が「再起」するために、証券で必ずチェックすべきポイントがあります。
「再調達価格(新価)」特約がついているか
最近の店舗向け火災保険では、新品を買い直す価格で補償する「再調達価格(新価)」での契約が主流になりつつあります。しかし、古い契約のまま放置されていたり、安さを売りにした一部の保険では、依然として「時価評価」になっている場合があります。時価評価だと、10年使った設備は減価償却によって評価額が激減し、再建は不可能です。必ず「価額協定特約」などが付帯されているか確認してください。
保険金額(上限)は「今の再建費」か
たとえ「再調達価格」での契約になっていても、上限(保険金額)が500万円に設定されていたら、そこで打ち切りです。今の建築・設備単価で、店をゼロから作り直せる総額(3,000万円以上)を上限に設定する必要があります。上限が低い保険は、いざという時に役に立ちません。
月数千円の保険料をケチった結果、事故が起きた瞬間に再起不能が確定する。そんなリスクの取り方は、経営判断ではなく単なるギャンブルです。
まとめ:守るべきは目先の小銭ではなく「事業の継続」
保険は「もしも」の時の気休めではなく、事故が起きた翌日から「また商売を再開する」ための具体的な軍資金です。500万もあれば十分だろうという思い込みが、経営を終わらせます。
今すぐ、あなたの店舗の保険証券を確認してください。「全焼しても、この金額で復旧しまた暖簾(のれん)を出せますか?」
答えがNOなら、その保険は本来の役割を果たしていません。事業を守るためのコストを、正しい場所へ投資してください。
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この記事の監修・執筆
(株)FIJ 営業本部長 / 岩井 義浩
元上場ノンバンク支店長(金融歴5年)、不動産サブリース実務15年。
「感情論ではなく、数字と法律でオーナーを守る」が信条のアナライザー。
年間200件以上の店舗査定と撤退相談を行い、AIを活用した適正な出口戦略を提案している。
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